- 2025.06.08
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- 2006.12.28
今更ながらクリスマス小話。
- 2006.12.14
ドラクエ祭り
- 2006.12.07
この空を飛べたら
ドラクエ祭り
御陵さんとドラクエ話に花が咲いたので勝手にドラクエ祭り。
以下、私がちっさい頃(笑)書いたアリーナの話。
小説、というレベルじゃないんですが、初めて纏まった文章書いた記念すべき話…なのでかなり稚拙です、って今もですが。
アリーナへの愛はこもってるんじゃないかなあ。
そして決してこの先は続きません(笑)
さて、更新すべくこれからがんばります。
アリーナ姫のお話を読む方は↓
この空を飛べたら
「何だか怖いですね、あの人……」
その言葉に、白一色の檻の中、小さな窓から見える青い空に目を向けていたルキアは、「あの人?」と振り返った。
「あの―――赤い髪の。時々来るじゃないですか、六番隊の―――副隊長の」
日に一度の清掃のため、隊舎牢に入りルキアと徐々に言葉を交わすようになった花太郎は、何処か遠くを見詰めるルキアの気が紛れれば、とそんな事を口にしてみる。
実際、ルキアは唯一の備品である椅子の上から殆ど動かない。ただ椅子に座り、小さな窓から遠くを見ている。
その、いつも何処か儚げな雰囲気を纏うルキアが、花太郎の言葉に珍しく表情を動かした。
「怖い―――恋次が?」
「お知り合い、ですか?」
ふたり共に驚いた表情をして見詰め合う。
ルキアは恋次の性格を知っていたが故に、それと「怖い」という言葉が繋がらなく、花太郎は大貴族であるルキアと、言っては何だが粗野な雰囲気の六番隊副隊長が知り合いだという事に驚いていた。
「あ、六番隊隊長は、ルキアさんのお兄さんでしたっけ……その関係で?」
納得したように頷く花太郎に、ルキアは「いや」と首を振る。
「恋次と私は、子供の頃からの―――」
ふ、とルキアは口をつぐんだ。
恋次と自分の関係、それは一体何なのか―――表す言葉が見つからず、ルキアは暫く黙り込む。
「―――子供の頃から知っている」
結局、そんな曖昧な言葉でしか伝えられなかった。
花太郎はそこでようやくルキアが朽木家の養女である事を思い出し、ふたりの出会いの場所に思い至る。
「まあ―――あの刺青もあるしな。あいつは身体も大きいし口も悪い。そう思われても仕方がないな」
くすりと笑うルキアに、花太郎は驚いた。
ルキアが笑うことは珍しかった。
自嘲気味に笑うことは多い、けれどこんな風に、おかしそうに笑うルキアの顔を見るのは初めてだ、と花太郎は気付く。
この話題ならば、ルキアの憂い顔を止める役に立つかもしれない。
そう考えて、花太郎は「ルキアさんは怖くはないんですか?」と尋ねてみる。
「ああ、怖くはないな。子供の頃はよく喧嘩をした。真央霊術院に入ってからも、よく言い争いをしたものだ……」
懐かしそうにルキアは笑う。
「見かけはああだが、面倒見はいいぞ。口は悪いが、性格は良い」
「でも、じゃあ、あの人は、子供の頃からの付き合いの―――そんなに親しかったルキアさんを、ここに閉じ込めたんですか」
普段の気弱そうな話し方に比べ、語気の強くなった花太郎の顔を見て、ルキアは静かに微笑んだ。
「四十六室の命だ、仕方あるまい」
「でも……っ!」
「四十六室の命令は絶対だ。それに逆らえばあいつも罪人になるだろう。それに―――」
瞼を伏せ、ルキアは小さく呟く。
―――多分、あいつは……私を探していただろうから。
姿を消したこの二ヶ月、恋次がルキアを探していただろう事は想像に難くない。確信すらしている―――恋次は自分を探していただろう、必死に。
四十六室の命が下る前からずっと。
「―――追っ手があいつで良かったと私は思っているよ」
「でも―――」
言い募る言葉が終わるより早く、「四番隊!いつまで掃除してるんだ!」と当番の六番隊員に叱責され、花太郎は振り返った。
「もう行くがいい。いつも綺麗にしてくれてありがとう」
「ルキアさん―――」
「また、明日―――明日があるのならば」
再び透き通るような笑顔を浮かべて、ルキアは窓の外に視線を移す。
その横顔に、ルキアの想いがこの空間に無いこと―――過去への想いと向かった事に気づき、花太郎はぺこりと頭を下げて牢を後にする。
がしゃん、と高く金属音がこだまする。
ルキアはその冷たい音に、何の意識も向けなかった。
窓の外の空を眺める。
青く、蒼く、碧く。
日によって時間によって色の変わるその空を、ルキアは飽きもせず見詰め続けた。
吸い込まれそうな空の蒼。
透き通った空の青。
この空を見る度に思い出す現世の言葉がある。
現世で過ごした二ヶ月の間に得た知識。
それは現世ではごく自然に認識されている言葉。
人は死ぬと、善き行いをしたものはそこへ行くという。
現世での記憶を持つ魂魄ならばその知識は当然のものだろう、しかしルキアには現世の記憶は無かった。
尸魂界の、流魂街の記憶が初めての記憶。
故に、その場所に興味を持った。
そこは、悩みも苦しみもない世界、らしい。
暖かな場所。幸せな場所。
そう考えて、ああ、とルキアは笑った。
その場所は確かにあるな、と。
私にとってのその場所は、もっと身近に。
―――もう、二度と戻れないけれど。
だから、天へと手を伸ばす。
あの空を飛べたら、唯一つのあの暖かい色、赤い色に辿り着けるのに。
出来るはずのないことは解っていて願ってしまうのは、縋るものが何も無いから。
叶うはずのないことは解っていて祈ってしまうのは、自分にはもう何も無いから。
ぼんやりと空を見上げるルキアの背後で、再び甲高い金属の発する音がした。
「―――何してんだ」
振り返る前から気付いている。
この牢に来る者など、花太郎以外にはただ一人しかいない。
来る必要など無いのに、来ればお互い苦しいだけなのに。
けれど会えなければ更に苦しい。
矛盾だらけだな、とルキアは苦く微笑む。
「空を見ていた。―――特にやることはない故な」
ゆっくりと振り返る。
求めてやまない紅い色。
手を伸ばしても届かないその赤い色。
鉄格子越しにふたりの視線は絡み合う。
何も言えない。
互いに何を言えばいいのか解らない。
ルキアの立場は罪人だ。それを覆す事など、恋次に出来るはずがないのだ。
ただ、見詰め合うしか出来なかった。
残された時間は、ほんの僅かなのだから。
けれどそれはルキアにとって。―――恋次の時間は、この先果てしなく続く。
多分この幼馴染は、自分を救えなかった事を新たな傷として生きていくつもりなのだろう。
あの日の傷よりももっと深く。
「何か欲しいものがあったら言えよ。―――それぐらいなら、」
言葉が切れたのは、自分の無力さを思い知ったからだろう。
それぐらいなら出来るから。
……それぐらいしか出来ないから。
「……くそっ」
やり場のない激しい想いに、恋次の拳が震えているのが見える。
―――どうして私は、いつも恋次を傷つけてばかりなのだろう……
本当は誰よりも幸せになって欲しいのに。
あの日、私が恋次と離れるという選択をしてしまった時から続く恋次の苦悩。
もう、終わりにしよう。
もう、これ以上苦しめるわけにはいかない。恋次がそこまで背負う必要はないのだ。
ルキアは椅子から立ち上がる。
ゆっくりと、格子の前に立つ恋次の真正面へと歩を進め、恋次を見上げた。
「欲しいものは何も無いのだが―――ひとつ、願いがある。……聞いてくれるだろうか」
「ああ」
間髪置かずに返る言葉に、ルキアは静かに微笑んだ。
「私のことは忘れてくれ」
そのルキアの言葉に、恋次の手が鉄格子を掴んだ。
それは同時に、甲高い金属音を牢内に響かせる。
「私はもうすぐ消滅するが―――」
恋次が何かを言い返そうと唇を開いたが、ルキアは穏やかに「事実は変わらないよ、恋次」と首を振る。
「だが、それをお前が気に病むことはない。お前には何の責任もないんだ。全て私が招いた事、全て私が選んだ道だ。何もかも」
あの日、お前の手を振り切ったあの時から、道は決まっていたのだろう。
離れては、いけなかったのだ。
離れて生きていけるはずなど、なかったのだから。
そっとルキアは手を伸ばした。立ち尽くす恋次の手に触れ、柔らかく握り締める。
あの日以来―――夢だと恋次が告げたあの日以来、初めて触れる恋次の手。
それは記憶の通り、変わらず暖かい。
「あと僅かで、私の身体も記憶も全てが消滅する。私に出来る事はもう何も無いけれど、でも一つだけ―――お前の為に出来る事がある」
―――それが私の、最後の我が侭だ。
―――最後まで、恋次には甘えてばかりだ―――。
「お前の中の私の記憶も連れて行く。―――お前はもう、私に縛られなくていいんだ」
ルキアは微笑む。
それは、穏やかな――透明な、微笑み。
全てを受け入れた笑み―――つまり、それは。
全てを諦めている、笑みだ。
「今まで……」
護ってくれて。
「……ありがとう」
そのぬくもり……その手を離す。
「さよなら」
もう、ルキアは振り返らなかった。
受け取れ、という言葉と共に、身体が宙へと投げ出され息を呑む。
「うわ―――」
ふわり、と身体が浮く感覚。
視界一杯に拡がる、何処までも続く青い青い空。
その青い空のただ中に、ルキアの身体は在る。
まるで、それは―――空を飛んでいるような。
―――この空を飛べたら……
あの赤い色に辿り着けるような気がして。
なくした時間を取り戻せるような気がして。
あの場所に戻れるような気がして―――……
この空を飛べたら。
「ルキア!」
自分の身体をしっかりと抱き止めた赤い色を、ルキアは信じられない思いでただ呆然と見上げていた。