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MOON AND THE MEMORIES

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一たつ。

急に何か書きたくなって、小話。

たつきは織姫が一護を好きなことを知ってるから、きっと一護には自分の気持ちを言わない。
一護は、自分の気持ちを伝えたら、たつきが織姫の為に拒絶する事が判っているから何も言わない。

だから二人は自分の想いは何も言わない。

道路の真中に立つ思いもよらなかったその姿に、俺はただバカみたいに突っ立っていた。視線が交差する。一秒……三秒……十秒。
「……何で」
 ようやく口に出来た言葉はそんなつまらない言葉。それでもその短い言葉が、二人の呪縛を解くきっかけになった。
 腕を組んだたつきの目が細くなった。何言ってんの、と言う時のたつきのお決まりの顔。
「あたしは、織姫の気配がわかるって言ったでしょ。もう忘れたの、アンタ」
 あの日、教室で確かにたつきはそう言っていた。ああ、と俺は納得する。戻ってきた井上の気配に気付いて、心配して見に来たのだろう。
「……戻ってるぜ、井上。会って来いよ」
「ううん。織姫も疲れてるだろうし。明日、会いに行くわよ」
 くるりと俺の前で踵を返すと、たつきはスタスタと歩き出した。何となく溜息を吐いて俺も歩き出す。
 頭上の月光の下、今更ながら、死覇装姿の自分に気付いて、たつきが魂魄の俺の姿も見えているという事が本当だったと思い至る。
「―――あたしが織姫の気配がわかるって事は」
 前を歩くたつきの声が聞こえる。
「腐れ縁のアンタの気配だってわかるって事なのよ」
 僅かの気配も見逃さず―――。
 疲労に、極端に落ちた霊圧を見落とす事無く。
「―――何か、疲れてるみたいだから。だから……迎えに来てやったわよ」
 歩みが、止まった。
 振り返ったたつきの顔が、泣きそうに歪んでいたのは、目の錯覚だろうか。
「―――あたしはまだあんたを許したわけじゃない。何も言わないで、あたしの知らないところに勝手に行って、あたしの知らない傷を作って、あたしの知らない時間を過ごしたあんたを許してない。―――け、ど」
 その後の言葉は、唇を噛み締めて言わなかった。
 再び踵を返してたつきは歩き出す。
「許してない―――けど」
 無事に帰ってきたから―――だから。
「たつき……」
「気安く呼ぶな、バカ」
「……悪かったよ」
「気軽に謝るな、バカ」
 声が―――震えている。たつきの声が。泣くのを堪えるように。掠れて、揺れて、震えて。
 ―――気付けば、後ろから抱きしめていた。
 その身体は、空手をやっているとは思えないほど、華奢で頼り無かった。
 俺たちはこんなに身長差があっただろうか。
 たつきはこんなに小さかっただろうか。
 後ろから頭を抱え寄せるように回した腕に、暖かい雫が触れる。それは後から後から流れて、俺の腕を濡らしていく。
 髪に触れる……唇で。出来る事といったら、たったそれだけのことしかない。
「―――気楽にこんなことするな、バカ」
「気楽にこんな事ができるかよ、馬鹿野郎」
 抱きしめる腕に力を込める。
 俺の腕の中から、堪えきれずにこぼれた泣き声と、俺を呼ぶ小さな声が、聞こえ、た。


 俺たちの関係は曖昧なままだ。
 言葉では伝えない。
 たつきもきっと、何も言わない。
 でも今この瞬間だけは、
 ―――きっと確かなもの。     

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